世界中が、貧困、紛争、気候変動、感染症等、人類は、これまでになかったような数多くの課題に直面している。そんな中、持続可能な開発目標(SDG’s)が2015年に採択され、人類がこの地球で暮らし続けていくために、課題を整理し、解決方法を考え、2030年までに達成すべき具体的な目標を設定した。(17の目標:SDGs17の目標 | SDGsクラブ | 日本ユニセフ協会(ユニセフ日本委員会) (unicef.or.jp))
そんな中、障害福祉でどのようにSDG’sの目標にコミットしていくのか、どのような社会問題を解決できるのか、そもそも、障害福祉事業とは何なのか、詳しく見ていきたい。
障害福祉事業とは
障害福祉サービス事業障害者総合支援法第5条第1項
居宅介護、重度訪問介護、同行援護、行動援護、療養介護、生活介護、短期入所、重度障害者等包括支援、自立訓練、就労移行支援、就労継続支援、就労定着支援、自立生活援助及び共同生活援助(施設障害福祉サービスを除く。)を行う事業を指します。
サービスは、個々の障害のある人々の障害程度や社会活動や介護者、居住等の状況等を踏まえ、個別に支給決定が行われる「障害福祉サービス」と、市区町村の創意工夫により、利用者の方々の状況に応じて柔軟に実施できる「地域生活支援事業」に大別されます。
「障害福祉サービス」は、介護の支援を受ける場合には「介護給付」、訓練等の支援を受ける場合は「訓練等給付」に位置付けられ、それぞれ、利用の際のプロセスが異なります。
サービスには期限のあるものと、期限のないものがありますが、有期限であっても、必要に応じて支給決定の更新(延長)は一定程度、可能となります。
障害福祉事業で、どのようにSDG’sの目標にコミットできるのか
SDG’sの目標には17項目あり、その中でも「③すべての人に健康と福祉を」をメインに、障害福祉事業を展開することは、「➀貧困をなくそう」「④質の高い教育をみんなに」「⑧働きがいも経済成長も」「⑩人や国の不平等をなくそう」「⑪住み続けられるまちづくりを」「⑯平和と公正をすべての人に」という、7つの項目に貢献できることが予想される。
現在、日本の障害児者数は増加傾向にあり、2023年3月発表資料では、1160.2万人(人口の約9.2%)。2006年には、障害者数が655.9万人なので、この17年間で約500万人も障害児者数が増加していることが分かる。原因としては、高齢者の障害者数の増加、現代社会の環境要因、障害に対する認識の広がり、等が挙げられる。
世界全体でみると、およそ10億の人々が、何らかの形の身体的、精神的もしくは感覚的な障害に苦しんでおり、それは世界人口のおよそ15%にあたる。障害者のおよそ80%の人々は開発途上国に住んでいるというデータもあり、「全ての人に健康と福祉を」という目標を達成するには、年々必要なリソースが増加していくことが予想される。
そのため、障害福祉サービスの需要が高まり、実際に、障害福祉サービスの利用者数の伸び率は、2018年➡2022年の4年間で、約24%増加。中でも精神障害と障害児の伸び率が大きい。
また、発達障害は、精神障害の1つとして分類され、2006年から2018年までの精神障害者の推移をみると、約51%も増加していることから、発達障害者も多く増加していることが予想される。
そのため、障害福祉事業の中でも、障害児や精神障害者の受け入れが可能な、受け皿や仕組みは早急に整えていく必要がある。
中でも、日本は、「障害者権利条約」に批准したことで、2022年9月に国連から審査を受け、精神科病棟からの脱施設化を強く勧告されたことで、より、精神障害の方々の受け皿を地域で確立していく必要がある。すべての人に福祉を届けるためには、障害福祉事業の展開が重要であると言えるだろう。
これを実現するための項目として、貧しい人たちや弱い立場にいる人が十分に生活を守れるような仕組みづくりを掲げている。障害者は、就労が困難な方も多く、経済的に弱い立場の方々が多い。そんな人たちでも利用できるシステムが障害福祉事業となる。
これを実現するための項目として、教育や職業訓練の中での差別をなくすことを掲げている。障害福祉事業の中の、就労継続支援事業や就労移行支援事業、就労定着支援事業などは、そのうちの障害を理由に職業訓練が受けられないような状況を改善できる。
これを実現するための項目として、障害がある人たちも、働きがいのある人間らしい仕事をできるようにする。そして、同じ仕事に対しては、同じだけの給料が支払われるようにすると掲げている。就労継続支援事業(A型)は、最低賃金以上の給与が利用者に支払われる仕組みになっており、また、就労移行支援事業は、一般企業等への就労を希望する人に知識及び能力向上のために必要な訓練を提供、就労支援定着支援事業は、一般就労に移行した人の就労に伴う生活面の課題に対応するための支援を行っており、障害福祉事業が目標達成に必要不可欠な存在であることがわかる。
これを実現するための項目として、年齢、性別、障がい、人種、民族、生まれ、宗教、経済状態などにかかわらず、すべての人が、能力を高め、社会的、経済的、政治的に取り残されないようにすすめる、と掲げている。障害福祉事業は地域移行も運営の目的としており、そういった事業所が増えることは、社会を巻き込んでマイノリティの認識・理解の促進の一助となる。
これを実現するための項目として、だれも取り残さない持続可能なまちづくりをすすめ、すべての国で、だれもが参加できる形で持続可能なまちづくりを計画し実行できるような能力を高める、と掲げている。障害福祉事業は、地域移行や就労移行等、障害を理由に難しいとされる部分に入り込んで、地域での生活を支援する事業となっているので、そういった部分で目標達成に必要であることが分かる。
これを実現するための項目として、あらゆる形の暴力と、暴力による死を大きく減らす、と掲げている。障害者の中には、障害を理由に、暴力を受けていても、助けを求める方法をしなかったり、反対に障害特性で周囲に危害を加えてしまう可能性があったりと、どちらの立場にもなり得る可能性がある。そんなときに、適切に支援に入る役割を担っているのが障害福祉事業。暴力事例すべてに障害者が関係するわけではないので、障害福祉事業だけですべてが解決とはならないが、障害分野に関するこの目的には、貢献できる事業である。
■障害福祉事業で解決できる社会問題
社会問題(社会課題)とは、社会の欠陥や矛盾から生じる諸問題のこと。
労働問題・人口問題・人種問題・都市問題・農村問題・住宅問題など多岐にわたるが、これからの日本は、少子化や高齢化が急スピードで進展していることに由来する問題が山積しており、岐路に立たされている。
そんな社会問題の中で、障害福祉事業を通して解決できるものをいくつか紹介する。
所有者である高齢者が老人ホームに入居したり、子供宅に転居したり、誰も住んでいない状態の家(空き家)が増加している。
2013年の全国の空き家数は約820万戸で、そのうち「所有者による定期的な利用がされていない状態の空き家」が2013年時点で318万戸ある。
このような放置状態の空き家が空き家全体の約4割を占めており、かつその割合は増加傾向にある。
また、空き家に関する法律を整備し、空き家状態を継続することで、家主への税負担が増えるような仕組みも整備が進められている。
こういった、空き家を利用した障害者グループホームの運営で、現在大きく展開しているのが、株式会社アニスピホールディングスが運営する「障がい者グループホームわおん」である。空き家を放置している方の新たな選択肢として存在することで、社会問題にも貢献しながら、障害福祉事業を進めていくモデルは、今後も空き家問題に貢献していくだろう。
総務省統計局によると2019年の9月時点で日本の高齢化率(65歳以上の高齢者が人口全体に占める割合)は約28.4%と過去最高となっている。
通常21%を超えると高齢化社会ではなく超高齢化社会と呼ぶので、日本は超高齢化社会に該当。しかも、2065年には38.4%まで上昇すると予測されている。
そんな中、「老障介護」や「8050問題」「親亡きあと問題」という社会問題も派生して存在する。
子が障害者で親が高齢化している問題を示す言葉で、80歳で50歳の障害のある子供の支援を行うことは非常に困難な状態。そのため、障害者グループホームという、早期に親と子を分離して生活の基盤を持つことが重要とされております。
障害者グループホームが増えることは、障害こういった、日本の人口の高齢化によって発生する問題の一助となる。
参照:日本の将来推計人口(平成29年推計)|国立社会保障・人口問題研究所
人口動態統計(厚労省)の死亡者総数に対する死亡原因別の順位(占有率)で「自殺」は9位(1.5%)。世界との比較では、WHOの2016年度の統計によると、日本人の自殺者数の順位(人口10万人あたり)は14位(18.5人)、性別に見ると、男性17位(26.0人)、女性8位(11.4人)。
2012年以降は経済が回復したこともあって自殺者数は減っていますが、G8国のなかでは韓国と並んで自殺率が高い国となっている。
2018年度における全年齢層の自殺の原因・動機は以下の通り。1位は心身の健康問題で、具体的にはうつ病などの精神疾患などが原因であることが分かる。
- 健康(49.2%)
- 経済・生活(16.2%)
- 家族(14.9%)
- 勤務(9.5%)
- 男女(5.1%)
精神障害の医療費の削減や、国連からの脱施設化に関する勧告によって、自殺の大きな原因を抱えている、精神障害の方々を、地域移行していく必要がある。そんな方々を地域で支援できるような仕組みを整えることが急務となる。そう考えると、障害福祉事業が担う、障害者の住む場所の提供や、働く場所の提供、働き始めた後の自立支援の提供は、社会問題でもある自殺増加に歯止めをかけるための重要な役割を担っており、障害福祉事業を通して社会問題に取り組んでいると言える。
最後に
世界はもちろん、日本にフォーカスをあてても、様々な社会問題があることがわかるが、それらの複数の問題に対して、障害福祉事業がかなり、重要な役割を果たしていることが分かる。
障害福祉事業は、関係予算額がこの15年間で約3倍に増加。
障害福祉予算は、国の負担が50%、自治体負担が50%。令和5年度の国の予算は、19,562億円と発表されており、この約2倍の額が、障害福祉事業の総給付費の予算となる。障害福祉サービスの利用も年々増加傾向にあるため、社会がこの事業を求めていることがデータからも読み取れる。
持続可能な社会を目指して、今後も、障害福祉事業を盛り上げていくことが、日本のみならず、世界各国で重要である。