障害福祉事業大手が買収されたり、障害福祉事業を運営する企業が高齢者介護の企業を買収したりと、福祉業界の売買が近年盛んです。そういった企業M&Aの観点から障害福祉業界の再編に注目しました。
障がい者グループホーム大手を買収【リネットジャパングループ】
リネットジャパンの事業
リネットジャパングループは日本全国の自治体の小型家電回収サービスをインターネットと宅配便を活用し、税金を使わない形で実現しています。ネットリサイクルを主事業とする会社ですが、障がい者グループホーム事業を行う「株式会社アニスピホールディングス」を買収し、本格的に福祉とのシナジー創出に乗り出しています。
同社が実現しようとしているのは、国内での「ネットリサイクル事業」で都市鉱山リサイクル＆知的障がい者雇用の創造モデルです。
買収の経緯
リネットジャパングループは、「収益と社会性の両立モデルの構築」を経営理念に掲げ、今後の成長戦略として、小型家電リサイクル事業と障がい福祉事業が相互にシナジーを発揮して成長する環境と福祉の連携「環福連携モデル」の構築を推進しています。
アニスピホールディングスの買収にあたっては、上記の戦略上の理由もありつつ、現在日本において障がい者グループホームの事業所数・利用者数が伸び続けていることを踏まえ、この立役者であるアニスピ社とのシナジーを狙ったものだと考えられます。
リネットジャパングループは、これまで小型家電リサイクル事業で、いわゆる「都市鉱山」（＝使われずに眠っているPCなどに含まれるレアメタルなどの資源）のリサイクルを推進しています。その現場では、多くの知的障がいのある方の雇用創造を推進してきました。また、そのような取り組みから発展する形で障がい福祉領域のソーシャルケア事業部を新規事業として立ち上げ、愛知県を中心に障がい者向けグループホームや就労継続 B 型施設を展開し、「環福連携モデル」の構築に取り組んできました。
アニスピ社が障がい者向けグループホームを直営及びレベニューシェア加盟店を合わせて全国に累積開設約 1,200 拠点・5,000 室の実績を有する業界の圧倒的リーディングカンパニーであることから、アニスピ社との連携によりリネットジャパングループが推進する環福連携モデルの構築が加速することになるでしょう。
障害者グループホーム 直営拠点数推移 19事業所 72拠点 358居室（2023年4月現在）
わおん参画企業数の推移・障害者グループホーム参画企業拠点数推移（2023年3月現在）
今後の事業展開
リサイクル事業（環境）とソーシャルケア事業（障がい福祉）を融合した環福連携モデルの実現を重点的成長戦略と位置づけ、環福連携モデルによるリサイクル事業の規模拡大の機会創出、ソーシャルケア事業の規模拡大の機会創出を実現を図るとしています。
リネットジャパングループ株式会社 会社概要 企業名 ：リネットジャパングループ株式会社 東証グロース証券コード：3556 代表者 ：代表取締役社長 黒田 武志 本社所在地 ：愛知県名古屋市中村区平池町 4-60-12 グローバルゲート26階 設立 ：2000年7月27日 資本金 ：16億4,364万円（2022年9月30日現在） 従業員数 ：1,194名(国内：705名・海外：489名パート・アルバイト含む、2022年9月30日現在) ホームページ ：https://corp.renet.jp/
障がい者GH大手を買収 ポラリス・キャピタル・グループ
ポラリス・キャピタル・グループの事業
ポラリス・キャピタル・グループは、企業の事業再編・再構築を支援するプライベートエクイティ（未公開株）ファンド運営会社。
元々はみずほグループだが現在は独立系。代表の木村氏は2019年に日本プライベート・エクイティ協会の会長に就任。事業承継案件から大企業のカーブアウトまで実績豊富な方です。
買収の経緯
日中サービス支援型の障がい者グループホームを中心に展開する「ソーシャルインクルー株式会社」の株式の大半を 2022 年 11 月中旬に取得することについて、創業者であり代表取締役社長である渡邊智成氏と合意し株式譲渡契約を締結、との報道がありました。
福祉医療機構が事業者に対してアンケート調査を実施したところ、「今後３年でいずれかのグループホームの新設を予定している」と回答した割合は13.4％でしたが、そのうち78.7％が介護サービス包括型で、日中サービス支援型は6.7％にとどまりました。
そんな中、ソーシャルインクルーは、日中サービス支援型の障がい者グループホームを主力事業として、全国に 150 以上の施設を展開しており、エリアカバレッジの広さにおいても圧倒的なポジショニングを確立しています。
日中サービス支援型 GH への入居需要が増加する一方、受け入れが可能な施設は供給不足が続いており、重度障がい者の日中サービス支援型 GH の入居者率は全国的に 1%未満と低い水準にあります。
ソーシャルインクルーは、日中サービス支援型 GH 業界において、全国的な施設展開を実現しており、これらの施設運営ノウハウに成長性を感じたことが今回の買収につながったようです。
障害支援区分別の利用者割合 厚生労働省「障害者の居住支援について 」
中重度と言われる、区分3以上の割合が2012年度から2021年度で、16.9%増加していることが分かる
新設予定のグループホーム類型 WAM調べ
今後の事業展開
ポラリスによる株式取得後は、ポラリスがこれまでに手掛けた医療、介護及びヘルスケア関連事業を含む多数の投資案件、事業承継案件、株式上場（IPO）案件などの豊富な経験から得たノウハウを活用し、既存投資先との連携を含めた営業面や財務面でのさまざまなサポートを行っていくことで、ソーシャルインクルーの飛躍的成長につながっていくことでしょう。
ポラリス・キャピタル・グループ株式会社 会社概要 企業名 ：ポラリス・キャピタル・グループ株式会社 東証スタンダード証券コード：3010 代表者 ：代表取締役社長 木村 雄治 本社所在地 ：東京都千代田区丸の内一丁目9番1号グラントウキョウノースタワー38階 設立 ：2004年9月13日 資本金 ：1億円 従業員数 ：30人 ホームページ ：https://www.polaris-cg.com/
高齢者デイサービス大手を買収 LITALICO
LITALICOの事業
「障害のない社会を作る」というビジョンを掲げ、全国主要都市で就労移行支援事業所「LITALICOワークス」や、発達障害のある子どもに向けた療育・学習支援サービス「LITALICOジュニア」、子ども向けのロボット・プログラミング教室の「LITALICOワンダー」を運営しているLITALICO。従来から提供している対人向けのサービスに加え、2016年以降はインターネットメディア事業にも注力しており、日本最大級の発達障害者向けポータルサイト「発達ナビ」を運営しています。
買収の経緯
LITALICO グループは、障害福祉分野において現在全国 270 拠点以上で就労や学びを支援するサービスを提供しております。それら BtoC サービスとしての事業所運営ノウハウを生かして、障害福祉分野の施設や従事者向けにインターネットプラットフォームサービス、具体的には集客、運営・経営支援、人材育成等のサービスを提供する障害福祉施設向け SaaS 事業を提供してきました。
今回の報道では、リハビリデイサービス大手「nagomi」を展開する株式会社 nCSを買収するとの発表がなされました。
株式会社 nCS は 2009年に設立され、東京都内を中心に、機能訓練特化型のデイサービスとして『リハビリデイサービスnagomi』（103店舗）と『リハビリデイサービスnagomiプラス』（11店舗）、訪問入浴介護事業として『リハビリ訪問入浴nagomi』（2 事業所）を運営しています。
LITALICOは採用連携などを通じてその出店拡大やサービスの充実を図り、nCSのノウハウや事業所運営で得られるデータを活かしてITソリューションの充実化、品質向上にもつなげる、という好循環を実現したいと考えており、今回の買収を決定したようです。
参照：2023年3月期第1四半期 決算説明資料 株式会社LITALICO
今後の事業展開
株式会社 nCS が LITALICO グループに加わることで、デイサービス事業の出店拡大とサービス充実を実現しつつ、介護領域におけるインターネットプラットフォームサービスの充実化・品質向上を実現し、より高付加価値のプロダクトとして介護業界全体に提供することを目指すとしています。
株式会社LITALICO 会社概要 企業名 ：株式会社LITALICO 東証グロース証券コード：7366 代表者 ：代表取締役会長 長谷川 敦弥 代表取締役社長 山口 文洋 本社所在地 ：東京都目黒区上目黒2-1-1 中目黒ＧＴタワー15F/16F/20F 設立 ：2005年12月 資本金 ：4億5600万1225円 従業員数 ：3,579名（2022年9月時点） ホームページ ： https://litalico.co.jp/
いかがでしたでしょうか。
最近の福祉業界では、介護・障害福祉・児童福祉の垣根を越えたM&Aや、異業種とのシナジーを狙ったM&Aなど、ダイナミックなM&Aが行われています。激動の福祉業界に今後も注目です！
